長戸大幸 イズム’s blog

ビーイングミュージシャンに関する記事です。

T-BOLAN

長戸大幸プロデューサーは87年にTUBEの4人を中心に渚のオールスターズをデビューさせました。89年、渚のオールスターズは3枚目のアルバムをリリース、そこに在籍していたメンバーのうち、栗林誠一郎さんは同年に、近藤房之助さんと増崎孝司さんは翌90年に各々ソロデビューを果たし(ちなみに増崎さんがリーダーを務めるDIMENSIONは92年)、坪倉唯子さんも90年に同じレーベルに移籍してアルバムをリリースしました。平行して進めていたプロジェクト、B.B.クィーンズのデビュー・シングル「おどるポンポコリン」が大ヒットして、翌91年、長戸大幸プロデューサーはZARDMi-KeT-BOLANWANDSなど様々なバンドやプロジェクトをデビューさせていきました。

T-BOLANは、91年12月18日にリリースされた2枚目のシングル「離したくはない」が、91年12月30日〜92年11月30日まで11ヶ月に渡りオリコンチャートの100位以内にランク・インし続けるロングランのヒットで、最高位は15位まで上昇、50万枚を超える大ヒットしました。彼らはこの曲を制作&リリースした事で、世の中に広く認知されました。「離したくはない」は91年10月から放送開始した、おんなの企業サスペンス関西テレビ・フジテレビ系ドラマ[ホテルウーマン]の挿入歌として、ドラマの良いシーンに使用されており、シングル発売前からすでに評判が良かったです。そしてシングルのリリースされる1ヶ月前の11月21日、[ホテルウーマン]のサウンド・トラック盤がリリースされ、この曲も収録されました。

ドラマ[ホテルウーマン]は主題歌(B’z「ALONE」)、オープニング・テーマ曲(WANDS「寂しさは秋の色」)以外にも挿入歌が5曲もありました。これは長戸プロデューサーが番組側に持ち込んだ企画でした。この合計7曲を一枚に収めたのがサウンド・トラック盤です。挿入歌の内訳ですが、前述の栗林さんの「Good-bye to you」、B.B.クィーンズから分家したMi-Ke宇徳敬子さんの「きれいだと言ってくれた」、T-BOLANの「離したくはない」、大黒摩季さんの「Stay」(ちなみにこれは彼女のシングル・デビューの半年前)、生沢佑一さんの「Hard to Say Good-bye」(生沢さんは翌92年に結成されたユニットTWINZERにメインで参加、2枚目シングル「OH SHINY DAY」は大ヒットしました。ちなみに宇徳さん、WANDS上杉昇さんがコーラスで参加していました)。このアルバムから、WANDSがデビューし、また大黒摩季さん、生沢佑一さんが翌年シングルでデビューしました。そしてT-BOLAN宇徳さんみたいにこのアルバムがきっかけでブレイクしたアーティストも居ました。

T-BOLANは第二回BAD AUDITION(1987年)で認められてビーイングで活動を開始してから、シングル「悲しみが痛いよ」でメジャー・デビューするまでに3年半以上かかった。当初歌詞のみの担当だった森友嵐士さんは作曲について長戸プロデューサーから学び、デモ制作を開始しましたが、最初にプロデューサーから絶賛されたデモが「離したくはない」でした。この曲はベースラインがド、シ、ラ、ソ、ファ(以下の楽曲もハ長調で記します)と下がっていく特徴をもっています。ちなみに、このコード進行でド〜レまで順番に下がっていくものを大逆循環と言い、最初に有名になったのは、1680年頃にパッヘルベル氏の作曲した「カノン」です。このコーナーで取り上げた楽曲ではZARD「負けないで」のサビ、「心を開いて」のAメロ等があり、他にも岡本真夜さんの「TOMORROW」、Mr.Childrenの「終わりなき旅」、松任谷由実さんの「守ってあげたい」、大塚愛さんの「さくらんぼ」、赤い鳥の「翼をください」等、実に沢山のヒット曲が、大逆循環を用いています。

「離したくはない」同様、T-BOLANの最大のヒット曲「Bye For Now」(6枚目シングル/ミリオン・セラー)も一部このコードを使っています。そしてこの「Bye For Now」にはさらにもう一つの特徴があります。それはサビの1小節目の出だしの最初のメロディをコードの構成音に無い音を使う、という物です。キーがC(ハ長調)だとするとド、ミ、ソ(1度、3度、5度)が構成和音です。小学校の時に「起立」という号令で立ち上がる時の和音です。「Bye For Now」のサビの出だしのコードはハ長調で考えるとCなのですが、出だし「素敵な別れさ〜」の最初の「す」の音は、ドでもミでもソでもなく、ラ(6度、ドから数えて6番目の音)で始まっています。コードに無い音で始まる事によって、メロディが立って曲が印象深くなります。

森友さんは他にもこれと同じ系統の手法で作曲したヒット曲を生み出しています。それは「刹那さを消せやしない」(9枚目シングル)です。この曲もキーをC(ハ長調)で説明しますと、サビの出だしのコードはCですが、サビ1小節目の最初のメロディはド、ミ、ソいずれでもなく、レが使われています(1番の歌詞で言うと“かわらぬ”の“ぬ”がサビの1小節目の最初の音)。

T-BOLANというと、やはり森友さんの歌い方に焦点が行きがちですが、実はメロディが際立っていたからこそ、歌唱法もより効果的だったのだと思います。近日中にそのあたりの事にも触れたいと思います。